山岳スキーガイドにおける Strategic mindset / ストラテジックマインドセットという思考アプローチ

今回の話はかなりマニアックなので、普通の人は読まないほうがいいです。
ただ、ガイド達が、”ヒャッホー”の裏側でこのような事も考えている、もしくは考えるべきな職業というのを知っていただくのも良いかもです。

カナダは、雪崩教育が世界でもトップクラスに進んでいる国の一つです。
経験がある人が多く周りにいて、雪に関係する仕事についている場合は、雪質や安定性についてを、絶えずグループとしてディスカッションするので、パトロール1年目などの経験がない人でも、ある程度の知識がすぐに付きます。なので、若い連中と話しても積雪構造についてなどをしっかり把握している様子が見受けられ、雪崩教育の裾野の広さを感じます。

ちなみに、私の考える経験(ガイドとして)は、単なる年数ではなく、”毎回考えて判断し、その判断についてを絶えず自己レビューしながら改善していく” x日数だと思っています。つまり何年間ガイドしていても、自分の判断に理由がない状態では経験になっていないと思っています。

さて、雪崩は科学的な学問という一面がありながら、最終的な判断は”人”に委ねられるので、相反する二面性をもっている、なんともやっかいな分野です。
プロ用の雪崩コースである、カナダ雪崩協会(CAA)Level2 (日本ではJANの雪崩業務従事者レベル2)などでは、数週間に渡るコースの内、最初の4日間は完璧に座学、心理学者が来て、自己の性格分析、性格パターンの種類(悲観者、楽観者、ノーテンキ者etc)、グループのまとめ方などを学びます。つまり雪が云々、結晶がどうの、みたいの全ての前に、決定を下す”人”の判断力ついてをみっちりやるわけです。

”これこれこういう理由で雪質は安定しているのでこの急斜面は滑ってOK!”
ってな具合に判断をするわけですが、自然の中は不確定要素だらけなので、”本当に滑ってOKだろうか?” ”見落としていた要素はないだろうか?”と不安になるわけです、が、ならない人も実はたくさんいます。人の性格によって判断は随分変わってしまうんですね。女性ドライバーは慎重で、若い男はイケイケですぐ事故る、っていうような感じです。それぞれ人は違う判断基準があるということです。ちなみに私はビビリ。

カナダのガイド達はグループで働くことが多いです。私のいるチャッタークリークだとガイドが4名+テールガイドx3名、キャットドライバー3名、キャットロードメンテナンスx1-2名と10名以上がテーブルに同席。大手ヘリスキーCMHなどは10名以上x10箇所以上のロッジが電話会議でミーティング、って感じなので、いろいろな性格の人が混じっており、通常であればミーティングで質の良い結果を、短時間で出すのが困難になってきます。ちなみにミーティングは20-30分程度です。

そこで必要となるのが、客観的に統一化された思考レベルです。
今グループがどこの思考レベルにいるのか、その思考レベルだとどういう行動をするといいのか? これを客観的に教えてくれれば、自己判断をするときに役に立ちますよね?
イケイケの人は自重気味に、保守的な人は少しプッシュするッて感じです。

その客観的に統一化された思考レベル、これがStrategic mindsetです。
Strategic Mindsetという考えは恐らくコンサルティングの世界に存在するのでしょうが、これをスキーガイドにあてはめたマニアがいらっしゃり、このStrategic mindsetをチャッターでは14-15年シーズンから徐々に使用し、今シーズンである15-16は毎日朝と夜に自分達がどこのレベルにいるかを確認するようになりました。スキーパトロールをやっているサンシャインでも使用しているので、カナダのガイド全体でやり始めているのかもですが、未確認ですが。

ちなみに、Strategicはストラテジックですが、ヒアリング的にはスタティージックに聞こえません?
http://ejje.weblio.jp/content/strategic (クイック再生をクリック)

ではどんなレベルがあるか見ていきましょう。
今回初翻訳ですが、そうすることにより自分も学べるのでダブルでお得!

Initial Assessment / Reassessment
小さく控えめな斜面を選んで行動している間に、雪崩の危険度評価の精度を高める為に情報を収集している状態。
シーズン頭、数日間スロープに入れなかった後の復帰戦、嵐の最中、新しい場所に行った場合など

Status Quo
コンディションに特筆すべき変化がない場合で、今までの雪崩危険度評価をそのまま使用しながら、その時の雪崩のコンディションに合った場所で滑る。雪崩危険度HighならHighなりの、LowならLowなりの行動を続けるということです

Stepping Out
雪崩コンディションが安定に向かい、情報収集も十分にできた状態で新しい斜面に足を伸ばす。範囲としては、慎重にステップアウトするから、大胆に行くまでをカバー

Open Season
積雪は安定して一部の限られた場所でのみ雪崩発生の可能性があるとグループが雪崩危険度を評価した状態。基本どこでも滑ってOKモード(上記の一部の限られた場所以外)

Stepping Back
天気が変化し雪崩危険度が増した、もしくは今までの危険度評価に影響を及ぼす現象を目撃し不覚的要素が増えた場合

大丈夫な筈の場所で雪崩を目撃や予想以上に雪が降ってきた、風が強いなど

Maintenance Mode
弱層が埋まりたて、もしくは埋まりそうな際に重点的に弱層を壊すようにライン取りをし、将来の雪崩い危険度の上昇をおさえる状態

Entrenchment
解決できない脆弱性が積雪内にあり、ツアーキャンセルの一歩手前の状態。
明らかに雪崩危険度が低減したと判断できる時まで、限られた地形でのみの行動。

Spring Diurnal Mode
春の午後、雪が緩んだ際にのみ雪崩危険度が高まる状態

ってな感じで以上の思考レベルをグループで持ちつつ、現場(現在と過去の雪質、天気)、お客さん(志向、体力、技術)、会社(営業時間、マシンを動かすコスト、同僚ガイド)の3者をうまく取り持ちつつ、行動毎の判断を下していっている毎日なわけです。

ここまで読んだ人はエライ! ダブり気味のステッカーをあげます笑